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最終更新日:2026.07.06
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豊岡演劇祭プロデューサー 加藤奈紬に会ってみた ― コミナス土居が会ってみた/行ってみた Vol.6 ―

はじめに

今回の「会ってみた」は、豊岡演劇祭プロデューサーの加藤奈紬さん。

9月に開催される豊岡演劇祭。その中で、養父市でも毎年公演が行われています。

「演劇祭」と聞くと、演劇が好きな人のためのイベント、舞台を観に行く人のためのもの、という印象を持つ方もいるかもしれません。

しかし、加藤さんのお話を伺う中で見えてきたのは、演劇祭が単なる公演の場ではなく、人と人が出会い、地域の中に新しいつながりが生まれていく場でもあるということでした。

文化や芸術が、暮らしの中で人を元気にする。

そんな社会的処方や文化的処方にもつながる視点から、今回お話を伺いました。

まずは加藤さんのこと

加藤さんは、愛知県名古屋市のご出身。

2020年、豊岡演劇祭の立ち上げに関わる地域おこし協力隊として、豊岡市へ移住されました。

もともとはダンスをされており、高校時代に創作ダンスに出会ったことをきっかけに、舞台を支える側にも関心を持つようになったそうです。

その後、京都の芸術大学で舞台芸術を学び、照明、音響、企画、制作など、舞台に関わるさまざまな経験を重ねてこられました。

現在は、豊岡演劇祭のプロデューサーとして、主に劇場などで行われる公演部分を担当されています。

印象的だったのは、加藤さんご自身が「実は演劇歴はすごく長いわけではない」と話されていたことです。

演劇を専門にしてきた人だけではなく、ダンスや舞台制作、そして地域との関わりを通して、今の豊岡演劇祭をつくっている。

その言葉から、演劇祭そのものの入口の広さも感じました。

豊岡演劇祭とは

豊岡演劇祭は、毎年9月に開催されている舞台芸術の祭典です。

「演劇祭」という名前ですが、演劇だけではありません。

ダンス、音楽、大道芸、ストリートパフォーマンスなど、さまざまな舞台芸術が但馬地域に広がります。

加藤さんは、豊岡演劇祭の特徴について、劇場だけで完結するものではなく、まち全体が舞台になることだと話してくださいました。

観光地としての魅力と演劇を組み合わせ、演劇を楽しみながらまちを歩き、まちを楽しみながら演劇に触れる。

そうした豊岡演劇祭のあり方は、普段あまり劇場に行かない人にとっても、舞台芸術に出会うきっかけになっているように感じました。

「観劇することだけが演劇祭の楽しみ方ではなくて、ナイトマーケットがあったり、ご飯を食べている横でパフォーマンスがあったり、劇場がまちに拡張しているようなデザインにしていきたい」

この言葉を聞きながら、演劇祭は「演劇を観る人」だけのものではなく、地域で暮らす人や、偶然その場に居合わせた人にも開かれているものなのだと感じました。

演劇と社会的処方

今回のインタビューでは、養父市が取り組んでいる社会的処方についても話が広がりました。

社会的処方とは、人とのつながりや地域の活動を通して、その人の暮らしや健康を支えていく考え方です。

加藤さんは、社会的処方について、特別な言葉にすると少し遠く感じるけれど、実は日常の中にすでにある営みなのではないかと話されていました。

たとえば、地域で区費を集金すること。

一見すると、ただの集金のように見えます。

しかし、ある地域の方はそれを「生存確認」だと話されていたそうです。

「集金じゃなくて、生存確認してるんだ。人に会うための理由に、いろんなものがなっているんだなと思いました」

この言葉がとても印象に残りました。

人と会う理由があること。

声をかけるきっかけがあること。

それは、まさに地域の中で孤立を防ぎ、人と人をつないでいく大切な営みなのだと思います。

演劇祭もまた、そうした「人と会う理由」や「外に出るきっかけ」になっているのかもしれません。

養父市での公演に込められた思い

豊岡演劇祭は豊岡市から始まりましたが、養父市は但馬地域の中でもいち早く、豊岡市に次いで開催地域となった市だそうです。

加藤さんは、そのこともあり、養父市には個人的にも強い思い入れがあると話されていました。

中でも、会場となるやぶ市民交流広場、通称YBファブについては、何度も「超いい」と表現されていました。

図書館棟やホール棟、芝生がつながっていること。

時間帯によって、子どもから高齢の方までさまざまな人が出入りしていること。

親子観覧室、車椅子席、キッズルーム、カフェなど、多様な人が利用しやすい環境が整っていること。

加藤さんは、YBファブについて、都心にも引けを取らない劇場であり、人が集まっている場所だと話されていました。

私自身も、コミュニティナースとしてYBファブに関わる中で、この場所が単なるイベント会場ではなく、図書館、市民健診、文化事業、地域活動など、さまざまな入口を持つ場所になっていると感じています。

演劇を観に来る人もいれば、本を借りに来る人もいる。

健診で訪れる人もいれば、子どもと芝生で過ごす人もいる。

そのような場所で演劇祭が行われることに、養父市公演ならではの意味があるのだと思います。

んまつーポスが養父市で続いている理由

養父市公演では、ダンスカンパニー「んまつーポス」による公演が今年で3年目となります。

1年目は子どもたちと一緒に作品をつくり、2年目は60歳以上のシニアの方々と作品をつくりました。

そして3年目となる今年は、子どもから大人まで、全世代を対象にした作品づくりが行われます。

加藤さんは、毎年アーティストが変わると、地域との関係性が積み重なりにくいと感じていたそうです。

だからこそ、地域の人たちと関係性を育てながら作品をつくる「んまつーポス」に、継続して来てほしいとお願いしてきたと話されていました。

「去年も、また来年もんまつーポスさんたちに来てほしいって地域の人たちが言ってくれたから、じゃあ3年目も呼びますねって」

最初は読み方も分かりにくかった「んまつーポス」という名前が、少しずつ地域の中で知られていく。

「また来てほしい」という声が生まれる。

その積み重ねそのものが、演劇祭が地域に根づいていく過程なのだと感じました。

演劇祭で起きている変化

昨年の公演では、養父市だけでなく、豊岡市、朝来市、さらには県外からも出演者が集まりました。

普段の暮らしも仕事も違う人たちが、数日間を共に過ごし、自分の考えを伝え合い、どうすれば面白くなるかを一緒に考え、本番に向かっていく。

加藤さんは、そのプロセス自体がとても印象的だったと話されていました。

舞台に立つ姿だけを見ていると分からないことがあります。

けれど、その裏側では、人と人が出会い、考えを交わし、一つのものを一緒につくる時間が流れています。

さらに印象的だったのは、昨年の出演者にDVDを渡すため、1年ぶりに再会した時のお話です。

ある出演者の方が、舞台に出たことをきっかけに、

「残りの人生、やりたいと思ったことは躊躇せずにやらなきゃだめだと思った」

と話され、その後さまざまなことに挑戦されていたそうです。

このエピソードを聞いた時、私はとても胸に残りました。

病気をきっかけに健康を意識する人はいます。

でも、文化や芸術に触れることによって、「やりたいことをやってみよう」と思えるようになる。

それは、暮らしの中で人が元気になっていく、とても大切な変化だと思います。

しかも加藤さんは、こうした変化について「狙ってやっていたわけではない」と話されていました。

狙いすぎるのではなく、楽しい時間や人との出会いの中で、結果としてその人の暮らしが少し変わっていく。

そこに、演劇祭や文化的処方の持つ力があるように感じました。

文化が歴史になっていくために

豊岡演劇祭は、2020年に始まり、今年で7回目の開催となります。

加藤さんは、まだ7回目ではあるけれど、50回、100回と続いていくことで、文化が歴史になっていくのではないかと話されていました。

18歳以下はチケット無料で観られる仕組みもあり、子どもたちが小さい頃から「このまちでは9月に演劇祭がある」と感じながら育っていく。

今はよく分からなくても、大人になってから、あの時の経験が何かにつながるかもしれない。

地域に文化が続いていくことは、単にイベントが続くということではなく、人の記憶やまちの風景の中に、少しずつ根づいていくことなのだと思います。

今年の養父市公演について

今年の養父市公演では、んまつーポスによる『からだ・からだ・からだは毎日語りかけている』が上演されます。

今年は、これまで関わってきた人も、まだ関わっていない人も一緒につながっていこうという思いから、全世代を対象に出演者を募集しています。

募集人数は、大人20名、子ども20名の計40名。

本番は9月19日土曜日、1日1回限りのステージです。

創作ダンスと聞くと、ダンス経験がないと難しいのではないかと思う方もいるかもしれません。

しかし、加藤さんは「ダンス経験がなくても全然大丈夫」と話されていました。

「何かの振り付けをみんなで合わせるというより、皆さんのありのままの姿を、んまつーポスさんたちが舞台上にかっこよく上げてくださる」

新しいことに挑戦してみたい。

演劇祭の人たちと関わってみたい。

時間があるから外に出てみようかな。

そんな気軽なきっかけでも大丈夫だそうです。

もう一つの養父市公演

また今年は、養父市でもう一つの公演も予定されています。

to R mansion(トゥ・アール・マンション)による『走れ☆星の王子メロス』です。

星の王子さまと走れメロスを組み合わせた、笑えて泣けるファミリーシアターとのこと。

加藤さんのお話を聞いていると、こちらもとても楽しそうで、家族や友人と気軽に観に行ける作品になりそうです。

「演劇をしっかり観てみたいけれど、なかなかきっかけがなかった」という方にも、よい入口になるのではないでしょうか。

つながるDAYYABUとして、ここを大事にしたい

今回、加藤さんのお話を伺って改めて感じたのは、演劇祭は単なる文化イベントではないということです。

もちろん、舞台作品としての魅力があります。

けれど、それだけではなく、

人が外に出るきっかけになること。

普段出会わない人と出会うこと。

何かに挑戦してみようと思えること。

終わった後も、その人の暮らしに小さな変化が残ること。

そうした一つひとつが、社会的処方や文化的処方の視点から見ても、とても大切な価値だと感じました。

養父市では、社会的処方の取り組みが進められています。

人とのつながり、居場所、地域の活動を通して、その人の暮らしや健康を支えていく。

その中で、演劇やダンス、文化芸術もまた、人を元気にする入口になるのだと思います。

おわりに

加藤さんのお話の中で、特に印象に残ったのは、YBファブへの言葉でした。

「超いい劇場」

その言葉の中には、単に設備が整っているという意味だけではなく、そこに人が集まり、多様な使われ方をしている場所への期待が込められているように感じました。

演劇祭があり、図書館があり、健診があり、カフェがあり、芝生があり、子どもから高齢の方までが出入りする。

そんなYBファブで、今年もまた演劇祭が開催されます。

観る人として。

出演する人として。

誰かを誘う人として。

少し気になるなと思った方は、ぜひこの機会に関わってみてください。

演劇祭は、特別な誰かだけのものではなく、地域の中で暮らす私たちにも開かれているものなのだと、今回のインタビューを通して感じました。

加藤さん、貴重なお話をありがとうございました。

この記事を書いたライター 土居 一雄

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