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最終更新日:2025.02.04
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大事にしているのは余白部分。ライドシェアサービス・やぶくるのドライバー力とは。〈やぶくるドライバー 西垣 勲一さん〉- やぶひと Vol.04

2024年12月24日

ライターの伊木(いき)です。
社会的処方推進課の皆さんと一緒に、2023年8月からお仕事をしています。その中で 養父市内を中心にさまざまな活動をしている人たちにお話を伺っていて、すごく魅力的 な人がたくさんいることに気付かされました。この記事は個人的な視点で、地域内の活 動を「人」にフォーカスしてご紹介するシリーズです。

今回はライドシェアサービス〈やぶくる〉ドライバーの西垣さんにインタビューをさせてもらいました。

〈やぶくる〉とは
地域のみなさんがドライバーとなり、マイカーで市民や観光客のみなさんの移動をお手伝いする制度です。
〈やぶくる〉公式ウェブサイトはこちら

兵庫県養父市は、国家戦略特区の「道路運送法の特例」を活用し、不特定多数の人が利用できる国家戦略特区法を活用した国家戦略特別区域自家用有償観光旅客等運送事業(以下、自家用有償観光旅客等運送サービス)「やぶくる」を2018年5月から運行している。[参照元

実施主体:特定非営利活動法人 養父市マイカー運送ネットワーク
構成員:市内タクシー事業者、バス事業者観光関連団体、地域自治組織等。

 〈養父市タクシー等利用料助成事業〉について


 

西垣さんと〈やぶくる〉の出会いとこれまで

▲〈やぶくる〉の制服を着た西垣さん

伊木:今日はよろしくお願いします。社会的処方推進課の余根田課長から、西垣さんが〈やぶくる〉のドライバーをされていて、利用者として出会ったあるご夫婦のエピソードを伺ったことから今日のインタビューに繋がりました。〈やぶくる〉のドライバーについて、少し伺っても良いですか。

西垣:ドライバーになったのは、〈やぶくる〉が始まったとき(平成30年5月)からなので6年以上になります。1ヶ月で多い時は30件以上、少ない時で15件ぐらい稼働しています。地域の特性上、診療所や買い物に行くおじいちゃん、おばあちゃんがメインで利用されていますね。運行が始まった当初は、関宮地域と大屋地域のエリア完結型で特定のエリアからは出られなかったんですけど、今年(令和6年)4月からエリア拡大されて6スポットに分割された八鹿・養父地域にも運行できるようになりました。利用目的は八鹿病院が多いです。帰りも運行はできるので、送る時に「帰りも頼むわ」って言われることが多くて、「何時に終わるん?」と聞くと「分かれへん」というやり取りもありました。基本的には指名はできないんですけど、僕が送っていく時に「帰りもあなたに頼みたい」って言われたら、僕の方から運営の方に「帰りも頼まれているので、対応します」と連絡を入れます。診察が終わって利用者さんからタクシー会社に連絡し、タクシー会社から僕に連絡が来て迎えに行くという流れになっています。

伊木:なぜ、やぶくるドライバーになろうと思ったんでしょうか。

西垣:それは僕の職業にも関係するんですけど、本業が畳屋なんです。畳屋ってお客さんのところに畳を取りに行って、作業場で仕事して、お客さんのところに納めに行く。っていう流れなので、作業場で作業する時間というのは、割と自由にコントロールできるところも活かせるなと思ってドライバーをしようと思いました。利用者さんに「本当にありがとう」と言われることがあるんで―――もう辞められないですね。辞めるって言ったら地域のおじいちゃん、おばあちゃんをほったらかしてしまうような感覚になっちゃってるんで、辞めるに辞められないなっていう感覚で。これは儲けとかそんなんじゃなく、続けることに意味を持たせないとダメだと思ってやっています。

〈やぶくる〉のドライバーと利用者の現状

▲やぶくる公式ウェブサイト トップページより

伊木:利用者さんやドライバーについて、課題だなと感じることはありますか。

西垣:利用者は多くはないです。僕の肌感覚では運行開始当初に利用されていたおじいちゃん、おばあちゃんはもういない方もおられます。老人ホームに入られたり、お亡くなりになったり、もう自由に動けなくなったから息子さんが都会から帰ってきたりしていて、(利用者は)一定数が入れ替わっていると感じています。利用者さんを増やそうっていう動きはいいんだけれども、増やすというよりも一定数をずっとこなしていくのがいいんじゃないかと思っています。高齢者が増える時期が来るので、そのタイミングでは〈やぶくる〉だけじゃなく全てにおいて利用者が増える時期が来ると思いますね。僕の感覚ではドライバーが増えるよりも、社会にケアができるような方が2〜3人いる状態がいいんじゃないかなと思ったりします。これはあくまで主観です。あとは当初のドライバーさんがある程度辞めていっている感覚です。運行開始当初は地域自治協議会の職員さんがドライバー登録していたので15、6人おられました。関宮には大谷、関宮、出合、熊次と4つの地域自治協議会があるので4人はおられたんですけど、その4人の方はドライバーの登録が今はありません。

伊木:一方で〈やぶくる〉を知らない方がたくさんいる可能性もあります。

西垣:大屋・関宮エリアでは、だいぶ浸透はしてきていると思っています。ただふたこと目には「料金が高い」という声があって、(高齢者の方も)まだ自分で運転できるから「やっぱり料金が高い」っていうイメージがあるみたいです。八鹿や養父地域には昔からタクシーがあるのでタクシーを使う文化があるんですけど、関宮や大屋地域ではタクシーを使うことは贅沢品で、タクシーなんかで家の前に帰ってきたら近所の人が「まあタクシーで帰ってきたわ」みたいな。「贅沢だな」みたいな雰囲気はちょっとあります。まだそんな地域柄もあるかな。そういうところで〈やぶくる〉はタクシーよりも安価で使いやすいんだけど、やっぱり高いっていうイメージがあって。

伊木:〈やぶくる〉がもっとこうであればいいなと思うところってありますか。

西垣:利用者さんに高齢者の方が多い中で感じていることがあります。僕は見守りはできるけど介助はできないんですよ。猫の手くらぶのスタッフさんが介助できるようになったんですけど、僕はそこに登録してないので玄関口までの送迎しかできません。そういう時に介助ができるような能力のあるドライバーがいると、とても心強いと思っています。これからは人の時代になります。〈やぶくる〉でも『ドライバー力』が大事になるんじゃないでしょうか。過去こういう経験があります。「診療所まで連れていってくれ」って言われて診療所へ行ったら、「八鹿病院まで〈やぶくる〉で行ってもらえないか」って言われて行ったことがあります。

人生という物語を乗せる〈やぶくる〉ドライバー

▲参考画像

伊木:他にも実際に利用されたお客様の印象的だったエピソードってありますか。

西垣:いくつかあるんですけど、僕が小さい頃からおじいちゃんだった人が利用者さんにいて、まだおじいちゃんだなと思いながら。小さい頃のエピソードから何から「あの頃あなた小さくて、そんな人に送ってもらえるようになって」って言ってすごいありがたがられたり。もう今は施設に入って利用されないんですけど、すごくその時にやりがいを感じましたね。昔から知っているおじいちゃんやおばあちゃんを今こうやって自分が運んで買い物してもらっていることとか、買い物時間を提供できていることもですし。あとエピソードでいうと、はちぶせの里の利用者さんで別宮っていう地区に住まわれてるおばあちゃんがいるんですけど、月に一回、やっぱり昔の家に帰りたいんですよね。1週間ぐらい外出許可を取ってご自宅に帰られるんですけど、「またいついつ帰るから迎えに来てね」なんて言ってもらって。自宅での時間がすごい楽しいみたいで、行きも荷物がたっぷりだし、帰りは大根やら白菜やら収穫した野菜まで積んで帰って。はちぶせの里では自炊されるんで「食べるんや」なんて言われるんですが、これはもうバスでは無理だなって思います。そのおばあちゃんの自宅がある地区は坂がきついので、バス停から歩くのも厳しい中で〈やぶくる〉はドアツードアで移動ができるのでとても良いと言われます。しかも階段があるので荷物を運ぶ手助けをするんですけど、そういうのは本当に『ドライバー力』で、ドライバーによってやるかどうかは様々。「運んで終わり」にはしたくないんです。寄り添いの部分がやはり大事かなと。勝手にやっちゃってるんで〈やぶくる〉ドライバーの共通認識ではないんですけど。

伊木:なるほど。そこはドライバーさんに任されている余白の部分なんですね。

西垣:あとは「歯が痛いから歯医者さん行く」っていうおばあちゃんに「タクシー半額補助の券を持ってる?」って聞いたら、「なんじゃそれは?」っていう話になって。(※養父市タクシー等利用料助成事業は〈やぶくる〉でも利用できる)これこれこうでって制度を説明して、歯医者のついでに地域局に立ち寄って半額補助の券を作るとこまで寄り添ったことがありました。地域局の職員さんに僕が話に行って、「これこれこうで作ってあげて」って言って「マイナンバーカードがあるか」というやり取りをして、その場で作ってもらって以来そのおばあちゃんは「もうあなたがあの時言ってくれたから、私はこうやって便利に継続して移動できてる」って今もずっと〈やぶくる〉を使ってくれてるんです。他にも車椅子のおじいちゃんがおられて、車椅子の積み下ろしを少し手伝ったりして。そういったことも含めて本当に余白の部分がとても多くて、総じて考えると本当に『ドライバー力』だなって思っていて、そこには誰でもできることではない何かがあるなとは感じてますね。そういうところ全てが社会的処方だなと僕は思っています。あとは余根田課長にも言ったんですけど、おじいちゃんおばあちゃんでよく利用してくれる方がおられて、ある日「買い物に行きたい」って言われたんで迎えに行ったら、おじいちゃんの動きが悪くて「ちょっと中に入ってもいい?」って家に入ったらとても顔色が悪くて。「ちょっと起き上がれんのや」なんて言われてて。「それはちょっとアカンで」と言って掛かりつけの出合診療所に電話して「これこれこんな状態で、呼吸も浅いし、ちょっと顔色が悪い」と伝えたら、診療所の先生に「救急車を呼んでくれ」って言われて、許可を取って僕が救急車を要請して。救急搬送でおじいちゃんは八鹿病院に行かれて入院になりました。そこからおばあちゃんは病院の付き添いに行くために〈やぶくる〉を使ってもらっていて、八鹿病院の行き帰りが毎日ぐらいあったので、半額補助の制度がとても役に立ったって言ってもらいました。だいぶ日が空いて、おばあちゃんがまた連絡してくれたんで、家に迎えに行ったら、おじいちゃんが亡くなったっていう話を聞きました。僕が運転して夫婦で買い物に行って楽しく買い物してるっていう思い出ごと僕は受け止めてるので、そのおじいちゃんが亡くなったって聞いた時もとてもショックでしたね。だけど引き続きおばあちゃんは「もう息子やと思って」と使い続けてくれてます。だから本当におじいちゃんおばあちゃんたちの最後の行きたいところに行ける自由時間を頼んでもらっているっていう感覚があります。〈やぶくる〉に乗って、動ける時の最後は〈やぶくる〉で、という感覚がありますね。

伊木:人生の物語にたくさん出会われてるんですね。

西垣:本当に最後のわがままを聞いてあげられるのは〈やぶくる〉だなと。あとはバスとかルールに則った移動手段を使って行くしかないんですけど、〈やぶくる〉は自由ですから。

西垣さんのドライバー力の向こう側にあるものとは。

▲実際に使用されている車両と西垣さん

伊木:なぜ西垣さんの『ドライバー力』は、何がモチベーションになっているんですか。

西垣:やっぱり僕は畳屋で地域に密着した仕事をしている、地域で事業をしている身だから、今まで関わってきた人がいることやその地域を何とかしなくちゃという想いが大きいんじゃないかなと思います。何が正解かわからないですけど、そこら辺の誰でもいいよっていう感覚ではない気がします。

伊木:西垣さんはそういった余白の部分をしんどいと思っていないですよね。

西垣:しんどいと思ってないんですよ。ただ「仕事が遅れる」とか、そういうことを思うときはあります。けど畳のお客さんも分かってくれる方が多いので「バタバタしとって、◯時には行けそうにないんです」って言ったら「ええで」って言ってくれるんで。。どうしてもっていう時は動けないですけど、そういうのも全部社会的に動いてきた結果なのかなと思います。

伊木:今、〈やぶくる〉のエピソードをメインに聞いていますが、他の部分でも『ドライバー力』のような余白の部分やアドリブで対応できる力みたいなところがあるんじゃないかなと思って聞いていました。本業の畳屋さんの部分でも、他人の人生を見るようなエピソードがあったんじゃないでしょうか。

西垣:そうですね。いろんな団体に所属しているので、いろんな場面でいろんなことには遭遇してきています。畳めくったら床が腐っていて「この板だけ変えようか」みたいな、畳屋だけど少しだけ大工仕事をしたりして。もろもろ便利屋みたいなところもありますね。お金に換算しない部分が多いです。やはり社会性は大事かなと思います。僕は畳屋の息子だでって言ったら、「〇〇さんの息子か」って親父の名前が出てきて「親父にも世話になったんや」っていう人がまたお客さんになるわけで。「これからはあんたにお世話になることになるなあ」なんていうことから始まって、よろしくお願いしますという関係になっていきます。

伊木:まさに社会性ですね。養父市での社会的処方の取り組みはご存知でしたか。

西垣:知っていました。資料とか色々と見て、個人的には〈やぶくる〉も社会的処方の一環じゃないかって思いながらやっています。

伊木:まさに『ドライバー力』の部分が社会的処方という概念に当たるんじゃないかなと思いながら聞いていました。

西垣:養父市が〈やぶくる〉を「人を右から左に運ぶ制度」という感覚を持っているうちは少し違うかもと思います。むしろこの余白の『ドライバー力』の部分こそが本質ではないか。ここが大事なんだと。社会的処方の考え方の部分が僕は大事なんだろうと思ってます。

伊木:もし〈やぶくる〉がなかったら、この地域はどうなっていくんでしょうね。そういうエピソードも生まれていないと思うんですけど。

西垣:まあ、何とかなっていくんでしょうけどね。本当にさっき言ったように、最後のわがままを聞いてあげられるっていうところはすごく感じますね。おじいちゃんおばあちゃんの動くことへの活力ってすごいんです。買い物をするってやっぱり楽しそうなんですよ。与えられるんじゃなくて自分で選ぶっていう、その思い出がすごい良さそうなので、そこを助けてあげられるというのは〈やぶくる〉があるからだろうなって思います。

伊木:いろいろ課題もあると思うんですけど、勝手ながら応援しています。

西垣:これからもドライバーを続けるつもりです。ただ僕も行けない時もあるので、お金の話だけじゃないし、地域自治協議会とか市役所に丸投げじゃなくて、僕なりにドライバーの仕組みについて何かいい方法がないかなと思って考えています。

伊木:今日はこのぐらいにしようかなと思います。ありがとうございました。

この記事を書いたライター 伊木 翔